Archipelagoは、海上コンテナのモジュールに合わせてプロダクト化=量産することで、移動・品質の安定・工期短縮を可能にした、あたらしい建築の選択肢です。
車のような » 動いて変形する建築「Archipelago」は、組み合わせ次第でさまざまな用途になります。住宅として使う場合には、どのようなメリットがあるのでしょうか? デザインした建築家・寺田雅史に話を聞きました。
プロダクト建築Archipelagoがローコストな理由
──まずは「Archipelago」の特徴を教えてもらえますか?
寺田|Archipelagoの特徴は大きく分けて3つあります。ひとつは「ローコスト」であること、ふたつめが「動く」こと、そして「プロダクト化している」ことです。
Archipelagoはひとつのユニットの大きさが約6m×2.4m(8.5畳)で、ひとつだけでも利用できますし、複数のArchipelagoを組み合わせることで、大小さまざまな建築物をつくることができます。
どんな用途にも使える居室タイプや、キッチンなどの設備が含まれる水まわりタイプなど、幅広い製品を展開しています。ユニットごとにかんたんに連結できて、いろんな使い方ができます。
──Archipelagoはどのようにローコストを実現しているのでしょうか?
寺田|Archipelagoは、これまでの住宅のような一品生産ではなく、みなさんがふだん使われている筆記用具や電化製品、自動車のように、プロダクトとして工場で大量生産します。そのため、一つひとつの製品にかかる費用を抑えているのです。
また、Archipelagoは人件費の低い日本国外の工場で全体の9割を製造し、日本まで輸送しています。ひとつのユニットをトラックで輸送できるコンテナの規格サイズに合わせて開発しているので、大きな輸送コストをかけずに移動させることができます。
「プロダクトである」ということと、「動く」ということ、最初にご紹介した3つのArchipelagoの特徴が密接に関係しあっています。それがArchipelagoにとってローコストであることのポイントですね。
ローコストな住宅Archipelagoの安全性
──安い海外製品の住宅と聞くと、安全性が心配です。
寺田|Archipelagoは、一般的な住宅よりも安全・安心です。
全体の9割を海外の工場で製造するために、徹底した管理環境を整えました。現場で建設するのではなく、専用工場で製造するという考えです。そのため、弊社では「商品」ではなく「製品」と意識的に呼ぶことにしています。
たとえば、日本で一般的な木造の住宅を建てるとき、建設する職人さんの技術によって家の安全性が左右されてしまいます。昨今では各地で職人不足が叫ばれていて、技術力も低下し、単価も上がってきていると言われています。
Archipelagoは、日本ではArchipelagoを移動させてジョイントするだけです。職人さんの熟練の技術も必要なく、かんたんに取り付けることができるので、高品質な施工精度を実現しています。
──かんたんに移動できる家は、地震などの災害時に壊れやすかったりしないのですか?
寺田|Archipelagoは重量鉄骨を使った建築です。もちろん確認申請も認証済みですし、構造の専門家とコラボレーションし、基礎などの建築構造もArchipelagoのために設計されています。
また、よく間違えられることなのですが、Archipelagoはものを運んだり仮設建築に使われるようなコンテナではありません。たとえば断熱性能では、一般的な住宅には使用しない、冷蔵庫に使われるような真空断熱材を使用しています。こういった非建材を使用するのも、プロダクト化のいい所です。車のように性能の高い建築を目標としています。» Archipelagoは、コンテナの大きさをした、安心安全な建築物なのです。
Archipelagoはローコストだから若くても買える
──Archipelagoをどんな人に買ってもらいたいですか?
寺田|いろんな人にArchipelagoを体験してもらいたいですが、ぜひ若い人にも買ってもらいたいですね。
──若いと言っても、家を買おうと考えるのは家族ができてからですよね。とくに独身だと、基本的には賃貸住宅で部屋を借りて住んでいる人がほとんどです。
寺田|Archipelagoは、ローコストですし、なにより動かせることができるので、家族ができる前から買っても問題ないのです。
一般的な住宅の建設費用を考えてみましょう。住宅金融支援機構によると、住宅の種類と面積、費用の全国平均は次のようになっています。[» 住宅金融支援機構 pdf]
面積 | 建設費用 | |
注文住宅 | 129.3㎡ | 3,308万円 |
建売住宅 | 101.7㎡ | 3,337万円 |
分譲マンション | 70.6㎡ | 4,266万円 |
たとえば分譲マンションの70平米は、3LDK、3〜4人家族向けの住宅として販売されています。基本的には家族が生活することを想定されているので、ひとり暮らしには広すぎますね。
つぎにArchipelagoの場合。Archipelagoはひとつのユニットが約14.4㎡です。同じ大きさで、居室スペースのicoが298万円、水まわりスペースのsanitaが468万円です。
ひとり暮らしやカップルだけの生活なら、icoとsanitaひとつずつで十分でしょう。ふたつ合わせて28.8㎡、766万円です。
──たしかに、ひとり暮らしの賃貸マンションの部屋の広さは25〜30㎡程度なので、それだけあれば生活できそうですね。
寺田|しかもArchipelagoは屋上をテラスのように使えるので、より豊かな環境で暮らすことができます。
しばらくして子どもが生まれて家族が増えたとしましょう。仮に4人家族になったとして、居室スペースをふたつ追加してみます。4つのArchipelagoを合わせて57.6㎡、1,362万円です。これでも注文住宅や建売住宅を建てるより安いですよね。しかもArchipelagoなら、すべて建築家がデザインした家に住めるんです。
Archipelagoは上に積み重ねることができるので、土地の大きさや形状に合わせて2階や3階をつくることができます。すると、上に積まれたArchipelagoの下に、屋根がかかったスペースができます。このArchipelagoの隙間も居住スペースとして利用することができるので、家の間取り以上に広い場所で暮らすことができるのです。
Archipelagoは賃貸住宅よりもお得、必要なときに部屋を買い足すあたらしいライフスタイル
──とはいえ、さきほどのお話では、ひとり暮らしをしようにも700万円近く必要なのですよね。それだと賃貸マンションを借りたほうが安いのではないですか?
寺田|賃貸住宅の平均家賃は、収入の3分の1程度とよく言われています。20代の平均的な月収を25万円とすると、月の家賃は約8万円になるので、1年で96万円です。つまり、8年以上賃貸住宅に暮らすのであれば、Archipelagoを買ったほうがお得だという計算になります。
家賃8万円の賃貸住宅で8年暮らしたときの総額 | 約768万円 |
Archipelago ico×1 + sanita×1 | 766万円 |
寺田|もちろん、Archipelagoは銀行でローンを組むことができます。家族ができてから家を建ててローンを返すことを考えると、ローコストでArchipelagoを購入し、若いころからローンを返していけば、これまででは考えられないほど早い年齢で返済することができるでしょう。
しかもArchipelagoなら、引っ越しのときにはそれまで暮らしていたArchipelagoの空間ごと引っ越すことができます。住み慣れた空間のままあたらしい生活を送ることができるのです。家族が増えたらそこにあたらしいArchipelagoを追加する。そうやって必要なとき、必要な場所に、必要な空間で生活する。3,000万円の家をいきなり買うのではなく、1,000万円からスタートし、必要なときに増やしていく。そうした暮らしがArchipelagoによってできるようになればいいなと思っています。
ローコストな住宅Archipelagoの本当にローコストなポイント
──Archipelagoは「» 匠コース」として、建築家である寺田さんや中山さん(屋根裏株式会社)がすでにデザインした住宅がそのまま購入できるようになっていますね。
寺田|そうなんです。匠コースにある「HANA」シリーズは、じつは私の建てる予定の自邸プロジェクトです(笑)。Archipelagoのユニットは、直交方向に上に積み上げていくことができます。じつは、これこそがArchipelagoが本当の意味でローコストなポイントなんです。
一般的な住宅は、柱などの構造材や、いくつもの外装材を組み合わせることでつくられます。なので、その建物が複雑なかたちをしていて、表面積が多くなっていれば、そのぶん多くの素材が必要になり、施工もたいへんになるので、建物の値段が上がってしまう。だから街には四角い直方体の建物ばかりが建っているんです。
しかし、Archipelagoはひとつのユニットの値段が決まっています。そして直交方向に積み上げることができる。「匠コース」で紹介しているArchipelagoのような、これまでの住宅にはない、複雑で豊かな空間を持った住宅は、Archipelagoだからこそ、ローコストなまま実現することができるのです。